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仙台高等裁判所 昭和50年(ネ)448号 判決 1977年12月23日

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

被控訴人は、控訴人腰沢勝子に対し金一一六万円および内金一〇六万円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人境久美子、同丸山さゆりに対しそれぞれ金三三万円および内金三〇万円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人腰沢一彦、同織笠敦子、同佐藤やよいに対しそれぞれ金六六万五、〇〇〇円および内金六〇万五、〇〇〇円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人腰沢勝子に対し金二七四万〇、三六二円および内金二五四万〇、三六二円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人境久美子、同丸山さゆりに対しそれぞれ金六五万円および内金六〇万円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人腰沢一彦、同織笠敦子、同佐藤やよいに対しそれぞれ金一五九万三、五七四円および内金一四九万三、五七四円に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、次に附加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(被控訴人の主張)

本件において両者の何れに過失があるかどうかは、両者が相手方を認め得た地点間の距離がいくらあつたかということにより判断せらるべきである。本件では亡腰沢明において前方注視義務を怠つていないかぎり二〇〇メートル前方の本件衝突地点に停車していた被控訴バスを発見し得たはずであり、両車両間にこの程度の距離があれば亡腰沢明はライトバンの速力を落すか一時停車するかの措置をとり本件衝突を避け得たのである。すなわち、亡腰沢明には、対向車である被控訴バスが自車の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じえないような特殊な場合であつたから、警音器を吹鳴して被控訴バスに避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端を進行するか、一時停止して被控訴バスの通過を待つて進行するなど臨機の処置を講ずべき注意義務があるのに、これを怠り、六〇キロという速度で減速もせず一時停止の措置もとらず、被控訴バスの鳴らした警音器にも気づかず、六〇キロ前後の速度で進行してきて、後退その他いかなる避譲も不可能な状態にあつた被控訴バスに衝突したものである。したがつて、被控訴バスの運転手遠藤伊勢治郞において、このようにあえて交通法規に違反して進行してくる被害車に対処するため、車掌熊谷育郞を下車せしめ交通整理をせしめなかつたからといつて過失があるとはいい得ない。

(控訴人らの主張)

被控訴人の前記主張はこれを争う。被控訴人の主張の如くであれば、腰沢明もまた二〇〇メートルの間被控訴バスを目撃し続け得る状態にあつたということになるが、そのようなことはあり得ない。被控訴バスは右側一ぱいに斜めに横たわり、左側には大型ダンプカーが四台停止して、道路は全面閉塞されていたのである。そういう状況を二〇〇メートルも進行する間(時間にすれば一〇数秒の間)全然気がつかず、又は気がついてもかまわずに進行するということは通常人として凡そあり得ることではない。のみならず、腰沢車は衝突前蛇行等は一切していないのである。腰沢車は停車中のダンプカー四台のうち三台とは無事すれ違い最後の一台とも接触等はしていない。このことは腰沢明が十分に前方を注視しその安全を確認しつつ走つた明白な証拠である。そしてこのダンプカー四台を確認しつつ運転していた腰沢明が一〇数秒も前からその四台目のダンプカーと並んで自車の進路を閉塞していた被控訴バスには気づかなかつたなどとはとうてい考え得ることではない。このことは、被控訴バスの行動が腰沢明からみて十分な前方注視にもかかわらず衝突回避の方法のない飛び出しであつたことを物語るものである。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  原判決の理由の九枚目表一〇行目から同裏九行目までの説示は当裁判所の判断と同一であるからこれを引用する。

二  成立に争いのない甲第一一号証の一ないし一三、第一二号証の一ないし一五、原審および当審(第一回)証人遠藤伊勢治郞の証言の一部、原審および当審(昭和五一年七月六日行われたもの)における検証の結果によれば、本件事故現場は、塩釜方面から石巻方面に通ずる国道四五号線上で、被控訴会社の左坂停留所(宮城県宮城郡松島町手樽字左坂一二番一号池田商店の前)から約二〇〇メートル東方に位置していること、本件事故現場附近の道路は幅員約七・三メートルの歩車道の区別のない舗装された道路であること、左坂停留所の附近は坂の上になつていて、西方の塩釜方面はカーブの多い下り坂であり、東方の石巻方面はほぼ一直線の下り坂となり、約二〇〇メートルの地点で南方にカーブしているが、そのカーブの地点が本件事故現場であること、すなわち、本件道路は塩釜方面から左坂停留所の附近まではカーブの多い上り坂であるが、同停留所から本件事故現場に至る約二〇〇メートルの間はほぼ一直線の下り坂であること、訴外遠藤伊勢治郞は被控訴会社のバス運転手であるが、昭和四五年七月一五日午前五時五一分、被控訴会社津谷案内所発、北仙台行の定期特急バス(車高三・〇五メートル、車幅二・四六メートル、車長一〇・〇二メートル)を運転して石巻方面から本件事故現場附近にさしかかつたが、前方の道路の左側に四台の大型ダンプカーが一列になつて停車していたため(約三〇メートル位の長さに)、いつたん一番手前のダンプカーの後部から一〇メートルほど離れたところで停車したうえ、右四台のダンプカーの右側を通過してその前方に出ようとし、道路の中央附近まで進出させて、反対の方向から進行してきた自動車二台の通過するのを待つたうえ、発進し対向車線である道路の右側部分に進路を変更して一番手前に停車していたダンプカーの右側まで進出したとき、前方約五〇メートルの地点に亡腰沢明の運転するライトバンが時速約五、六〇キロメートルの速度で対向して進行してくるのを発見し、停車したが、まにあわず、正面衝突するにいたつたこと、双方の自動車のスリツプ痕は見受けられなかつたことが認められる。

原審および当審(第一、二回)証人遠藤伊勢治郞は、「被控訴バスを運転して本件事故現場附近にさしかかり、進路の前方に一列になつて停車していた四台のダンプカーの右側を通過してその前方に出ようとし、反対の方向から進行してきた二台の車の通過するのを待つたうえ、道路の右側部分に出て、一番手前に停車していたダンプカーとならんだとき、前方約二〇〇メートルの坂の上から対向してくる亡腰沢明のライトバンを発見したので停車したが、右ライトバンがスピードをおとさず前方約一一七メートルの地点まできたのでクラクシヨンを鳴らした。」旨の供述をしているけれども、前記甲第一一号証の一ないし一三、第一二号証の一ないし一五によれば、右遠藤運転手は、昭和四五年七月一五日の塩釜警察署の警察官の実況見分においては、前方約五〇・九メートルの地点で最初に右ライトバンを発見したことを指示し、同年一二月一日の宮城県警察本部の警察官の実況見分においては、前方約八四・五メートルの地点で最初に右ライトバンを発見したことを指示していることが認められ(証人遠藤伊勢治郞(当審第二回)は、昭和四五年七月一五日付の実況見分調書は警察官が、最初に発見したときの相手車の位置とクラクシヨンを鳴らしたときの相手車の位置との指示をとり違えて記載したものと思われ、後に、塩釜署で、同日付の実況見分調書に記載されているような指示と同一内容の調書に押印を求められたため、異議を申し立てたが、受けいれられず、不本意ながらこれに押印をした旨の供述をしているけれども、にわかに信用することができない。)、亡腰沢明が進行してきた坂の上の左坂停留所から本件事故現場附近までの約二〇〇メートルはほぼ一直線になつている下り坂の見通しのよい道路であることに照らしてみると、右遠藤伊勢治郞の供述はたやすく信用することができない。

同様に、当時被控訴バスに乗車していた原審および当審証人佐藤勝子、原審証人加藤利一、当審証人及川実ならびに当時被控訴バスの車掌をしていた原審証人熊谷育郞の、右遠藤伊勢治郞の供述に符合する、被控訴バスが道路の右側部分に出たとき、前方約二〇〇メートルの坂の上から亡腰沢明のライトバンが対向してくるのを認めた旨の証言もまたたやすく採用することができない。ほかには右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

次に、原審証人小幡春之進、同大場久雄、当審(第一回)証人遠藤伊勢治郞は、右ライトバンのブレーキの利きがわるかつた旨の供述をしているけれども、前記甲第一一号証の一、二、原審証人桜井章の証言に照らしてたやすく信用することができず、原審証人遠藤伊勢治郞の、右ライトバンに乗車していた長沢忍から右ライトバンのブレーキの利きがわるかつたことを聞いた旨の証言もまた、原審証人長沢忍の証言に照らして信用できない。

前記認定の事実によれば、ライトバンを運転していた亡腰沢明に前方の交通の安全を確認しないままに前記認定の速度で進行してきた点において過失があることはいうまでもないが、被控訴バスを運転していた遠藤伊勢治郞においても、反対の方向から進行してくる車両の有無に十分に注意し、その安全であることを確認した後でなければ道路の右側部分に出てはならない注意義務があるものとみられ、これをつくしていたならば、右腰沢車との衝突を避けることができたものと認められるから、本件事故の発生については遠藤運転手にも過失があるものというべきである。

三  右のとおりで、本件事故当時、右遠藤伊勢治郞が被控訴会社に雇われ、被控訴会社のため被控訴バスを運行していたものであることについては当事者間に争いがないから、被控訴会社は自動車損害賠償保障法三条により本件事故により控訴人らが蒙つた損害を賠償する義務がある。

1  逸失利益

成立に争いのない甲第四号証の一、二、原審における控訴人腰沢勝子の本人尋問の結果によれば、亡腰沢明は、死亡当時、タイルの販売、風呂釜、浴槽の設置等を業とする株式会社コシザワの代表者として年間少なくとも六六万円の収入を得ていたことが認められ、生活費として五〇パーセントを控除するのが相当であるから(右認定にていしよくする甲第八号証、原審における控訴人腰沢勝子の各供述はこれをとらない)、これを差し引いた三三万円が同訴外人の年純収入額であり、同訴外人は就労可能年数の範囲内である七年は就労することができたものと認められるから、七年間の純収入額を現価に換算する(年五分の法定利率による係数六・五を乗ずる)と、二一四万五、〇〇〇円となる。

次に、成立に争いのない甲第二、第三号証、原審における控訴人腰沢勝子の本人尋問の結果によれば、亡腰沢明が死亡当時受けていた恩給年額から同訴外人の死亡により控訴人勝子が受けることとなる扶助料年額を控除すると、五万三、六四八円であることが認められ、生命表によれば、同訴外人の平均余命は一六年を下らないものであることが認められるから、中間利息を控除して一時に支払を受ける金額に換算すると、六一万六、九五二円となる(五万三、六四八円に一六年の新ホフマン係数一一・五を乗ずる)。

しかして控訴人勝子が亡腰沢明の妻で、その余の控訴人らが同訴外人の子であることは当事者間に争いがないところ、原審における控訴人腰沢一彦、同腰沢勝子の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人久美子、同さゆりの相続の放棄により、控訴人一彦、同敦子、同やよいは同訴外人の子としてそれぞれ九分の二の相続分に応じた各六一万円(一万未満切捨)の請求権を相続することになり、控訴人勝子は三分の一の九二万円(一万未満切捨)の請求権を相続することとなる。

2  葬儀費用

原審における控訴人腰沢勝子の本人尋問の結果によれば、同控訴人は、亡腰沢明の葬儀を行つたことにより葬儀費用として二〇万円を下らない支出をしたことが認められ、右支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。

3  慰藉料

前述した亡腰沢明の年齢、職業、控訴人らとの関係その他本件にあらわれた諸事情を考慮すると、控訴人らの蒙つた精神的損害に対する慰藉料の額は、控訴人勝子につき金一〇〇万円、その余の控訴人らにつきそれぞれ六〇万円を下らないものと認めるのが相当である。

四  そして、本件事故の発生について亡腰沢明に過失があることは前認定のとおりであり、前認定の事実によれば、その過夫の程度は遠藤運転手のそれと比較して五分五分であると認められる。

五  そこで、控訴人らの有する損害賠償債権の額を算出すると、次のとおりである。

控訴人勝子については、三項の1ないし3の合計二一二万円から過失相殺としてその五〇パーセントを減ずると、一〇六万円となる。

控訴人久美子、同さゆりについては、それぞれ、三項の3の六〇万円から過失相殺としてその五〇パーセントを減ずると、三〇万円となる。

控訴人一彦、同敦子、同やよいについては、それぞれ、三項の1および3の合計一二一万円から過失相殺としてその五〇パーセントを減ずると、六〇万五、〇〇〇円となる。

六  次に弁護士費用について判断するに、原審における控訴人腰沢勝子の本人尋問の結果に本件口頭弁論の全趣旨を参酌すれば、控訴人らは、被控訴会社が任意に本件事故による損害額を控訴人らに支払う意思のなかつたことにより、弁護士に委任して本件訴訟の追行を依頼したことが認められ、本件訴額訴訟の難易度、本訴において勝訴した額その他本件訴訟の過程にあらわれた諸事情を考慮すると、控訴人勝子について一〇万円、控訴人久美子、同さゆりについて三万円、その余の控訴人らについてそれぞれ六万円をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

七  よつて、控訴人らの本訴請求は、控訴人勝子において一一六万円、控訴人久美子、同さゆりについてそれぞれ三三万円、控訴人一彦、同敦子、同やよいについてそれぞれ六六万五、〇〇〇円、および、右のうち、それぞれ弁護士費用に相当する部分を除く金員に対する昭和四五年七月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

したがつて、原審が控訴人らの本訴請求をいずれも棄却したのは失当であつて控訴人らの本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更することとし、民事訴訟法三八六条、九六条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郞 武田平次郞 武藤冬士己)

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